せいび界 2025年8月号
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会社が半数を超える現状では、労働分配率を6割と仮定しても年収400万円代である。都市部では新卒採用において510万円が相場とも言われ、条件面でもハードルは高い。北海道の株式会社宮田自動車商会では、2011年に宮田祐市社長が就任して以来、理想の人材確保に苦労してきた。コロナ禍に観光業や飲食業などからの流入が一時的にあったが定着せず、厳しい状況だ。「総務が片足突っ込んで採用活動するやり方では立ち打ちできない」。宮田社長は2年前に専任の「人材開発室」を立ち上げ、採用から定着、組織風土の改善までを一気通貫で行う体制に切り替えた。社内報の発行、組織満足度調査などを通じ、22拠点を横断する〝共通の文化〟の醸成を目指す。また、教育にも力を入れ、新入社員には2カ月の研修、自動車部品商の経営課題として、長らく「経営基盤の確保と今後の成長戦略」が挙げられてきた。しかし、ここ数年で新たに経営者を悩ませているのが〝人材不足〟である。今回、全日本自動車部品卸商協同組合(全部協)が開催したパネルディスカッションでは、「人材確保、人材育成等人財戦略に関する取り組み」をテーマに、現場の最前線で奮闘する4人の社長が自社のリアルな取組みを語った。全部協が行なっている基礎統計調査によると、部品商の経営課題として「人手不足」と答えた企業は38・7%にものぼる。配送はパートに頼り、社員は社内で電話対応に追われる―。そんな綱渡りのような人員体制が続く中で、経営基盤の強化には「人材の安定確保」が不可欠だと指摘されている。しかしながら、粗利が年間一人当たり800万円以下の管理職には外部研修を受けさせるなど、多階層での学び直しを推進。最近では先輩社員が講師役を務めるセミナーを開催し、知識の伝承にも注力している。千葉県の日新自動車部品株式会社は、逆に〝辞めない会社〟として注目された。長坂圭将社長によれば、ハローワークや地域の縁故などで新卒者を中心に採用している。採用に際して重要視されているのが「会社の雰囲気」だという。「私が社長になって売上目標を一切なくしたことで、みんなが丸くなりました」と長坂社長。売上至上主義を廃し、社員同士が協力し合いながらお客様に喜ばれることを優先する社風に変えた結果、出産後に戻ってくる女性社員も多く、定着率は高止まり。近年はシニア層の採用も進めており、高い勤労意欲を持つ人材が支えとなっている。経営課題のトップに躍り出た「人材不足」【宮田自動車商会】人材開発室の設置で〝形〟から変える【日新自動車部品】目標を追わず「和気あいあい」で定着率向上             14―人材確保の最前線―全部協パネルディスカッションから読み解く「人財戦略」のリアル

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