せいび界 2025年8月号
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一方、福井県の株式会社オートショップ福井では、「整備士を整備させない求人」というユニークな発想が話題を呼んでいる。長谷川仁子社長は「整備士資格を持つ人の6割が異業種に転職する」とのデータに着目。整備士の知識を活かしながら、現場作業ではなく部品管理やフロント対応に従事してもらう形で募集を行い、確保した。さらにパート採用では「午前だけ」「午後だけ」など、複数のシフトを組み合わせて一人分の業務をカバー。社用車台数を増やさずに済むだけでなく、ダブルワーク希望者や高スキルのシニア層も採用できる仕組みを構築している。また、無人セルフピックアップ倉庫を設置し、顧客が営業時間外でも部品を引き取れる仕組みを用意。省人化と顧客満足度向上を両立させた好例と言えるだろう。兵庫県姫路市のムツミ商事株式会社では、採用を〝会社の知名度向上活動〟と位置づける。島津秀伸社長は「同じ合同企業説明会に大手も出展している中、部品商の認知度はまだまだ低い」と語る。新卒向けには大手就活サイトを活用しつつ、地域密着の就職支援会社や県主催の求人サイト、さらにUターンを促すリクルーターとも提携。4つのチャンネルを駆使して採用の間口を広げている。またインターンシップを5年前から導入し、入社まで2年がかりで自社を選んでもらう仕組みを構築した。入社後は外部研修だけでなく、配送業務を通じた「現場での学び」と先輩社員によるコミュニケーション指導を重視。かつて組合が発行した『部品商業務の基礎知識』などの教材を活用し、地に足のついた人材育成を徹底している。4人の話に共通していたのは、単なる採用活動にとどまらない「定着率アップ」と「組織文化の醸成」、そして「多様な働き方の提案」だ。配送を支えるパートの柔軟なシフト、シニア層の活用、社内報や研修による文化の共有など、どの施策も現場のリアルな課題感から生まれた実践的な知恵である。同時に、ICTツールの活用や社内ポータルの整備といったDX化の動きも加速している。「人材が集められない会社は、生き残れない時代が来ている」。ディスカッション終盤、司会を務めた株式会社フジモーターズの新戸部八州男会長のこの言葉が、参加者に重く響いた。高齢化と少子化という構造的問題に直面しながら、整備需要は当面減らない自動車業界。人手不足を補うのは、柔軟な採用戦略と定着施策、そして一人ひとりが長く活躍できる仕組みだ。【オートショップ福井】「整備士を整備させない」逆転発想の求人【ムツミ商事】地域密着×多チャンネルで認知度アップ各社に共通するキーワード若者を惹きつけ、育て、活かす写真左から、株式会社フジモーターズ:新戸部八州男会長、株式会社宮田自動車商会:宮田祐市社長、日新自動車部品株式会社:長坂圭将社長、株式会社オートショップ福井:長谷川仁子社長、ムツミ商事株式会社:島津秀伸社長。              10名もの整備士資格保有者をFeatured articles|全日本自動車部品卸商協同組合15

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